未曾有のコスト上昇に見舞われる現代において、「値上げ交渉」は営業マンの仕事の苦しみになっている。
- ファミレスのランチやコンビニのコーヒーの価格は知らないうちに簡単に値上がりしてるのに、お客様への値上げはなぜこんなにも大変なんだ。。
- そもそもこっちはサプライヤーから強硬な値上げを受けているのに、なんでお客さんは認めてくれないんだ。。
- 会社の方針で値上げ交渉しているのに、個人を否定するような態度をなぜとるんだ。。
BtoBビジネスの営業マンの方はこのような苦しみを抱えながら、必死に値上げ交渉に取り組んでいると思われる。
私もエネルギー系企業でセールスエンジニアとして働いており、本来はお客さんとの製品開発やシーズ提案などワクワクするようなことに集中したいのだが、今は値上げ交渉に多くの時間を割かれているのが現状だ。
本記事では、私の経験、および職場の先輩・後輩の交渉内容をケースステディに、そこから得られた値上げ交渉の進め方の3つのコツを説明する。少しでも皆さんの役に立てれば嬉しく思う。
3つのコツと日頃から取り組むべきたった1つのこと
値上げ交渉の進め方の3つのコツは次の通りだ。
- 相手と苦しみを共感する
- 相手が社内で評価される手柄をプレゼントする
- 相手と一緒になって社内を納得させる準備をする
これらは順不同ではない。1つずつステップを踏んでいく必要がある。それぞれのステップについては後程詳しく説明する。
また、3つのコツとは別に、日頃から取り組むべきたった1つのことがある。
それは、「担当者と密なコミュニケーションをとって関係を構築しておくこと」だ。
お客さんのキーマン(意思決定者)と関係強化しておく必要はない。担当者に頑張ってもらうのだ。
従って、担当者と信頼関係があるか、ないかが肝となり、これは日頃の営業活動が非常に重要になってくるのである。
1つめのコツに通ずるものだが、自分を含め担当者というのは決定権があるわけではなく、お客さんと社内方針の間で板挟みになる。「お互い辛いですよね~」「僕らにやれることは限られてますよね~」という部分をシェアすることで、担当者との関係を日頃から構築していくようにしよう。
相手の立場に立って苦しみを共感する
前段の続きとなるが、まず1つめのコツは「相手の立場に立って苦しみを共感する」ということだ。
担当者の場合、値上げの話を社内に持ち帰ると恐らく上司から「そんなもん突き返せ!」「この部分どういうこと?自分でまずは説明できてから話持ってこい!」といった形で詰められると思われる。
要は、自分が値上げを受ける側だった場合、どういうことが想定されるかをイメージし、その苦しみに対して共感を示すことが重要だ。
相手もサプライヤーから申し入れをされている以上は、会社対会社の関係として少なからず話を持ち帰って報告する必要がある。その立場をしっかり理解し、自分が理解していることを相手に態度で伝えるようにしよう。
この時、前段で説明したような担当者との関係性があるかないかで、相手の苦しみを引き出せるかが変わってくる。相手がその苦しみを口や態度に示すようであればそれはチャンスであり、共感していることを示すようにしよう。
相手が社内で評価される手柄をプレゼントする
1つめのコツで相手の立場を理解し共感したとしても、そう簡単には交渉は進んでいかない。
たとえ相手との関係性が良く、○○さんのために自分も頑張ろうと思ってくれたとしても、相手にとってメリットがなければ苦しみを乗り越えて進んでいくことは難しい。
そのような場合、交渉を前に推進するドライビングフォースとして、相手が喜ぶものを用意すると良い。
つまり2つ目のコツは、「相手が社内で評価される手柄をプレゼントする」ということだ。
これができると、自分と担当者との間でwin-winの関係ができ、うまく手柄を用意すればそれは会社間のwin-winへと繋がっていく。
例えば、値上げの申し入れ総額が1,000万円だとする。これを、なんとか社内で調整をして800万円で済むようにする。自分の頑張りによって浮いた200万円は、相手担当者の値下げ交渉によって得られた200万円として社内説明してもらうようにするのだ。
すると担当者は、「1,000万円の値上げを受けましたが、交渉の末800万円に値上げ額を抑えることができました!」と社内に報告することができる。一方で自分は、1,000万円での申し入れだとまったく話が進まず値上げ額がゼロになる可能性があったところを、800万円の値上げ成功という実績に繋げることができるのだ。
お互いの妥協点を上手く見つけることで、社内に持ち帰る手柄をプレゼントすることができ、結果としてwin-winの結果を得ることができる。
ここで一つ大切なのは、交渉の落としどころとなる妥協点を、交渉開始時からある程度見定めたうえで進めるという点だ。場合によっては事前に社内了承を得ておき、「めちゃくちゃ頑張ってなんとか800万円の了承を社内で得られました~~、、、」と伝えることで、相手に評価してもらえる可能性もある。
相手と一緒になって社内を納得させる準備をする
ここまでくるとあとはいかに早く合意するかに向けての動きとなる。
3つ目のコツは、「相手と一緒になって社内を納得させる準備をする」ということだ。
担当者が社内で受けるであろう質問・指摘を説明するためのデータを集め、説明資料を準備したり、ロジックを一緒になって構築する。必要に応じて相手の上司相手に状況を説明し、嫌われ役は自分が担う。
BtoBの場合、結局は対会社であるため、担当者の壁を乗り越えさえすれば、その上司はきちんとしたロジックさえあれば話は聞いてくれる。
いずれにしても、自分が相手に説明をして終わり、ではなく、それをもとに担当者が社内説明をすることを想定して、協力して準備をしよう。
日頃から担当者と関係性を築いておくことを最初に述べたが、この3つ目のコツを行うことで、担当者間とさらに深い関係を構築していくことができ、今後の営業活動にプラスに効いてくる。
番外編:裏技
以下は番外編として、裏技(といいつつ当たり前のように使用する手段だが)を説明する。
- 適切なタイミングでお互い上司を呼ぶ
- 供給を約束できないことを武器とする
- 業界全体の動きを利用する
適切なタイミングでお互い上司を呼ぶ
担当者である程度話が済んだが、話が進まない。落としどころが見つけられない。そんなときは上司(あるいは部長クラスの上層部)を呼んで話を一気に推進していこう。
上であればあるほど、会社対会社の話へと発展していくため、よりマイルドな方向へ話が軟着陸していく。ただし、上層部面談をセッティングするのは多少なりとも労力がかかることであるため、その点ご留意頂きたい。
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供給を約束できないことを武器とする
これもサプライヤーがよく使う技だ。「供給できなくなりますけど、いいんですか?」という言い方だ。
ただ、もう少しマイルドに伝える方法もある。
- 今後も安定して事業を継続していくために値上げを認めていただきたい。値上げを受け入れてもらえない場合、安定供給をお約束することができない。今後も安定供給および製品価値向上に精一杯取り組むので、どうか理解頂きたい。
- 足元突然取引を停止するということはないが、今後さらに供給が制限されていった場合、我々の製品価値を認めてくれ、適正価格への改定を合意してくれたお客さんから優先して供給せざるを得ない恐れがある。その時には、大変申し訳ないが、いったん取引をお休みさせて頂く。
など、「安定供給」という言葉を上手く使えば、マイルドな表現でこっそり強気な交渉が可能だ。
ただし、取引条件や取引が始まった背景によっては供給責任が発生するため、その点は確認しておく必要がある。
業界全体の動きを利用する
- 競合他社と足並みをそろえる。
- 業界最大手が認めていた場合、それをバックに自分たちも認めてほしいとお願いする。
- 基準となる指標を示して業界全体の動きを示す。
こういったことが考えられる。直近だと、日本製鉄がトヨタに対し鋼材価格を大幅に引き上げたことがニュースになっていた。こういった大きな動きを示しながら、値上げの合意を迫っていくといった動きもある。
業界全体が値上げを認める動きの中、相手の会社だけがそれを認めない場合悪目立ちするため、会社としてもそれは望むべき状況ではないはずだ。そういった痛いところをついて交渉を進めていくことも考えていこう。
最後に
ここまで、私なりの3つのコツ+番外編について説明した。説明した私が言うのも良くないが、値上げ交渉はこんなに簡単ではない。
時間もかかるし、心も疲弊するし、場合によっては満額取れずに収支が悪化することもある。今はあらゆるコストが上昇しており、混乱した世の中ではあるが、いつかこの状況が落ち着き、営業マンが本来やるべき営業活動に時間を割くことができるようになり、今よりも前向きに働けるようになることを心の底から祈っている。
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