私は、プライム上場企業で高機能化学品の技術営業をしている、しがないサラリーマンです。
担当は自動車業界でして、OEMやそのTier1を相手に技術交渉を行い、先方の新商材に自社製品を採用頂けるよう日々活動しています。
先日、担当需要家の先行開発を担う部署のキーマンである設計部長を自社の研究所へ招待し、技術討議及び自社の技術プレゼンをする機会を得ました。
実はこの需要家への販売実績はまだなく、数年前から様々な開発案件に取り組んできましたがコンペで競合先に負け続けており、競合に勝るためにもこの機会は千載一遇のチャンスであり、超重要イベントです。
開発キーマンである設計部長の気を引くにはどうしたら良いか、自社のことをもっと知ってもらうにはどうしたら良いか、信頼できるパートナーとして見てもらうにはどうしたら良いか、ひたすら考え、私はあることにトライしてみました。
それは、自社の経営理念、ビジョンをぶつけるということ。
結論、私のプレゼンは設計部長の心に刺さり、大変有難い評価を頂くことができました。
「まず感動した。」「今まで色々なメーカーとやり取りをしてきたが、こんな気持ちのこもったプレゼンは初めて。」「御社の技術に対するこだわりや熱い想いが伝わり、感銘を受けた。」「これからは信頼できるメーカーとはフルオープンで技術交流を図っていきたい。」「御社がその信頼に足る素晴らしい会社であることを再認識した。」
上記のコメントをその場でフィードバック頂くことができたのです。
では、なぜそのような結果を得ることができたのか。
先方上層部の心を掴むようなプレゼンをできる営業マンが一人でも増えることを願って、その秘訣を共有します。
上層部の関心ごとは何か?をまず考える
上層部の方は大変忙しいため、貴重な時間を頂く以上は、先方が喜び聞いて良かったと思う内容を短時間で説明する必要があります。
なんとなく表敬訪問をしたり、なんとなく会社紹介をするだけでは、ただ上層部と面談する機会を創出しただけの自己満に終わってしまい、先方上層部の心を動かすことはできません。
☞営業マンの出世心得|「表敬訪問はするな」上層部面談では〇〇を話せ
むしろ時間を割いて来たのにこの程度か、とがっかりされ、会社としての評価を落とすことにも繋がります。
では、上層部の関心ごとは何なのでしょうか。
それは、会社のありたい姿やブランドメッセージ、今後注力する市場といった、経営理念やビジョンです。
相手がどのような姿を目指している会社なのか、どのような想いをもった会社なのかを理解し、将来長く付き合うべき相手なのかを見定めようとするのが上層部の心理です。
極端な話、具体的な製品や技術、そのコスト等は担当者達が必死になって取り組むべき話であり、上層部の関心領域ではないのです。
経営や管理を担う上層部は、1つの商品や技術に興味があるのではなく、より高い視座で1サプライヤーとしての姿や価値を判断しようとします。
そんな上層部に対しては、いつもと違った視点でのスペシャルなプレゼンが必要になるのです。
相手の会社のグループレポートを読み込む
自社の経営理念やビジョンを上層部にぶつける、という選択をすることで、他サプライヤーの表敬訪問との差別化ができてきます。
ではさらに自分のプレゼンをスペシャルなものにするにはどうしたらよいか。
相手の会社のことを深く知り、そしてその知ろうとしている姿勢をきちんと伝えることです。
異性があなたの趣味について勉強してくれ、あなたと共通の趣味を持とうと努力してくれていたら嬉しいですよね?
同じようにビジネスにおいても、自社のビジネスを知ろうとしている姿勢を示してくれる相手や、実際に良く知っている相手は、付き合う相手としてよく見えますし、信頼を得やすくなります。
「あ、こんなところまでちゃんと知っているんだ。こいつら本気なんだな。」と思わせることができれば、相手の心がグッと近くに寄ってきます。
そのために具体的やるべきことは、相手の会社のグループレポートを読み込むことです。
どのような経営理念を持っているのか、どのセグメントに今後注力していくのか、どのようなブランドPRをしているのか等を理解し、自分のプレゼンや相手との会話の中に織り交ぜることで自分の理解を積極的に示すようにしましょう。
相手の会社の動向や価値観は、日頃の担当層との打合せの中でも、少しずつヒアリングすることができます。
自分のお客様のことをとにかく深く知ろうとする。
この姿勢を持つことが大事です。
自社と相手のシナジーを自分の言葉で伝える
上層部の心をガシッと鷲掴みにするために、最後にもう一工夫を入れます。
それは、自社と相手のシナジーを自分の言葉で伝えるということです。
「自分の言葉で伝える」というのがポイントで、自社ないしは自分の熱い思いやこだわり、成し遂げたいことをストレートな表現で、相手の目を見て伝えきることが重要です。
抑揚や間の取り方、表情も当然重要になります。
ただ自社の経営理念やビジョンを伝えるだけでは上層部の心の奥まで刺さることはありません。
相手の会社の経営理念や技術的な強み、注力する市場などと自社の経営理念や技術、戦略を重ね合わせ、「他のどの企業でもない、あなたたちと〇〇を成し遂げたいんだ。そしてそのためには、我々が必要なんだ。」ということを表現するのです。
使いまわしたプレゼンではなく、今日のために、そのお客様のために、時間をかけ想いを込めてオリジナルなプレゼンを準備することで、相手は自分たちが特別な会社として大事に思われているということを意識するはずです。
フィードバックを直接もらう
これまでのことを全て反映させたオリジナルのスペシャルプレゼンを終えた暁には、是非フィードバックをその場でもらうようにして下さい。
「正直、ここまでの内容をお客様にぶつけたのは初めてなのですが、どのように感じられましたか?率直な感想を是非伺いたいです。」
このようなカタチでフィードバックを求めてみましょう。
経営理念やビジョンをぶつけ、シナジーを言葉で伝えたとしても、一方的なコミュニケーションでは成功は見えてきません。
双方的により高い視座でのコミュニケーションを取ることで、経営理念やビジョンまで踏み込んだ会話ができ、会社対会社でのより強固な関係構築に繋げることができます。
先方上層部から出てくるフィードバックに対しては、良いフィードバックだとしても悪いフィードバックだとしても真摯に受け止め、その場でこちらからもアンサーを提示するようにしましょう。
真に信頼に足る企業であるということを目一杯表現し、相手の信頼を勝ち取るのです。
現在の開発推進、新規案件発掘に繋げる
ここまでできれば上出来ですが、営業マンとしての役割を果たすために、もう一歩アクションを起こしましょう。
先方上層部の心を掴むことができた暁には、是非上層部からの鶴の一声を頂き、現在取り組んでいる開発案件の更なる推進や新規案件発掘に繋げてください。
上層部を味方につけること程、担当層にとって強みになるものはありません。
先方上層部がこちらを向いてくれているその内に、更なる技術交流を図ったり、評価工数を割いてもらったり、具体的なアクションに繋げていきましょう。
スペシャルプレゼンをして満足ではもったいなく、継続したアクションを取ることが重要です。
先方上層部とせっかくできたコネクションも大切にし、できるだけ期間を開けずに再度コンタクトを取ることも大事です。
継続的な、太く長いお付き合いをしていくためにはどのような活動が必要なのか、次のアクション、更なる効果的なアクションを考え、実行するようにしていきましょう。
最後に:私のケース
私の場合は、先方上層部を自社の研究所に泊まりがけでお呼びし、技術討議、研究所見学、ブランドメッセージプレゼンを実施しました。
研究所についた最初のタイミングで、会社の紹介とブランドメッセージプレゼンを実施し、その時点で大変ありがたいフィードバックを頂きました。
その後研究所見学を終えた際には、改めてフィードバックを頂き、「御社の、お客様の技術の中核に自分たちの技術を浸透させていきたい、お客様と共に世の中に価値ある製品を生み出していきたい、という想いが感じられる研究所だった。」とコメントを頂くことができました。
その結果、「信頼できるメーカーとは更なる技術交流を図りたい。是非フルオープンで話がしたい。自分たちが考えている新商品もあるため、是非紹介したい。」と設計部長からコメント頂くことができ、実際にその2ヶ月後に、先方がまだリリースしていない新商材を紹介いただき、試作品の見学までさせて頂くことができました。
その情報開示に対し我々も自社の新技術を紹介し、結果として秘密保持契約を締結して新しい開発案件が立ち上がりました。
私自身、先方上層部の後押しを受けることでこんなにも早く案件化まで進むのかと驚いたと同時に、先方上層部の心を掴むことのインパクトの大きさを実感できました。
相手の上層部へコンタクトし心を掴むような活動ができるような営業マンは、世の中にそう多くはいないはずです。
自分なりの、自分にしかできない営業活動ができる営業マンになるべく、オリジナルな方法を是非考えてみて下さい。
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