品質トラブル、供給トラブルなどのトラブルクレームが発生した際、正しいやり方、時間軸で進めていくことがとにかく大切です。
正しいやり方を理解せずにその場しのぎの行き当たりばったりな対応を取ってしまうと、小さい傷で済んだはずのトラブルの傷口がどんどん広がり、最悪の場合重大クレームへ繋がる恐れがあります。
この記事では、トラブルクレーム発生直後の初期対応から、解決・クロージングまでの流れを、化学メーカーで技術営業として働く現役営業マンが説明します。
販売の最前線で顧客と直接やり取りを取る営業のあなたの1つの行動、言動が、正しいトラブルクレーム解決、ひいては顧客との更なる信頼関係の強化に繋がります。
ただトラブルクレームを解決に導くだけなく、「転んでもただでは起きるな!」の精神で、普通の営業マンの一歩二歩先を行きましょう。
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トラブルクレーム対応の全体像・流れ
トラブルクレーム対応の全体の流れは以下の通りです。今自分がどのフェーズにいるのか、次のフェーズは何なのか、最終的なゴールまでの道筋を描いた上で対応を取っていきましょう。
トラブルクレームはとにかく初期対応が命です。
発生したトラブルクレームの規模感や種類によってクロージングまでにかかる期間は変わりますが、暫定対応と今後の流れの報告・合意までをまずはトラクレ発生から翌日までを目安に滞りなく進めましょう。
暫定対応と今後の流れを合意するところまで進めることができれば、時間を稼ぎながら十分な社内協議の時間もとって進めていくことができます。
また、クロージングに向けて注意すべきことも複数あるため、その点も細かく説明していきます。
トラブルクレーム対応時に意識すべき大切なこと
各フェーズの細かい話をする前に、トラブルクレーム対応時に意識すべき大切なことをまずは理解しましょう。
トラブルクレーム発生からクロージングまでの間、常にこの意識を忘れないでください。
- 顧客に対し誠実な態度を貫くこと
- トラブルが起きて最も困るのは顧客であり、トラブルをクロージングさせたいという想いは自分たちと同じであることを忘れないこと
- 顧客側に味方になってくれる人(普段やり取りしている担当者など)をつくること
- クロージング後は従来の運用に戻すこと
トラブルクレームを報告すると、顧客は時には怒ります。早く対策を打てと時には怒鳴ってくるかもしれません。
しかし、顧客が求めていることは一秒でも早くトラブルを解決し通常運転に戻ることであり、それはすなわち、こちらからの原因報告や対策に対し「OK」の回答をしたいということです。
厳しい要求を受けたとしても、それは解決に向けてヒントを与えてくれていると受け取り、顧客が納得してトラブルをクロージングさせられるためには何が必要なのかを考えて行動するようにしましょう。
その際、顧客側に味方になってくれる人間が一人でも多くいれば物事はスムーズに進みます。
日頃の営業活動でそのような味方を作ることを意識し、トラブル発生時はその人間を頼りにして進めていきましょう。
トラブルクレームの各フェーズ毎の対応
それでは、各フェーズ毎に詳細を説明します。
情報収集・意思決定:トラブルクレーム発生後速やかに
情報収集
トラブルクレームが発生すると、まずは顧客や製造現場、物流現場等からトラブルクレームの報告が上がります。
営業としては次の2つを意識して動き出しましょう。
- できる限り具体的に、正確な情報を収集すること
- 得られた情報を、社内の関係者へ速やかに共有すること(特に上司とはタイムリーに)
トラブルクレームが発生した直後では、発生した事象が今後どのような影響を及ぼすのかや、そもそもなぜそのトラブルが発生したのかといった要因を細かく確認、検討することはできません。
その時点で得られる限りの情報を「正確に」関係者へ共有し、手持ちの情報の範囲内でクロージングを意識したうえで意思決定を行います。
意思決定
この一番最初の意思決定は、最終的にどのようなクロージングができるかに直結します。
当然まだ分からないことは分からないとして受け入れた上で、下記項目をベースに意思決定してきましょう。
- 顧客へどのような伝え方をするか(緊急度、影響度、重要度)
- 顧客へどこまで伝えるか
- 顧客に意思決定してもらわなければいけないことは何か
例えば品質不良品を納品してしまったというトラブルの場合、顧客はその納品物を用いて顧客側の業務(例えば製造ライン)を止めるか止めないかの判断をしなければいけません。
自社として言える範囲はどこまでなのかをはっきりさせ、最終的には顧客にも意思決定を促す必要がある場合があります。
自社内で意思決定しなければいけない内容の中には、「顧客にどうさせるか」も含みますので、そこまで想いを巡らせて議論しましょう。
第一報・意思決定:トラブルクレーム発生日
第一報
意思決定が完了次第、発生したトラブルの第一報を行います。
顧客側で発生したトラブルの場合、顧客は既にトラブルが発生しているという事態は把握しています。
一方で顧客が把握できる範囲外でトラブルが発生した場合、この第一報をもって顧客はトラブルが発生しているという事態を知ることとなります。
前項で述べた緊急度や重要度次第で伝え方は変わりますが、そのレベル感を顧客に誤って認識されないよう注意して第一報を行いましょう。
基本的には、認識に齟齬が無いようまずは電話で直接お伝えし、その後関係者の方へメールを送りましょう。
バタバタしている場合はまず電話での報告のみで構いませんが、24時間以内にメールでも報告をするようにしましょう。
メールを送らないと、正式な連絡として受け取られない恐れや、先方側で伝言ゲームのミスが発生する可能性があります。
正しい情報をメールに記載し、先方関係者や必要な上長と情報を共有できるようにしましょう。
また、営業としては第一報のタイミングで先方の反応を注意深く察知し、先方側での本トラブルの重要度や緊急度を把握するようにしましょう。
当然、必要に応じてすぐに直接現場へ訪問し、更なる情報収集、誠意を示す行動を取ることも必要です。
顧客は営業を通してしかこちら側の対応状況を知ることができないので、営業の1つ1つの行動スピードや態度が会社の姿として受け取られることを忘れないようにしましょう。
加えて第一報の際に、顧客側にこのトラブル対応で協力してくれる味方をつくることを意識しましょう。
大抵の場合、普段やり取りをしている担当者にこのポジションを担ってもらいます。時には、その担当者の上長を巻き込むことも必要です。
トラブル報告は顧客を怒らせてしまう可能性もあるため、非常に億劫な仕事ですが、トラブル報告を受けた顧客側も同じ気持ちです。
トラブルが発生して最も困るのは顧客側であり、当然顧客もトラブルを一刻も早くクロージングさせたいという想いがあります。
その気持ちに寄り添うことで、「トラブルをクロージングさせる」という共通の目標に向かって顧客と協力することができるのです。
意思決定
第一報を踏まえて、顧客側との意思決定を速やかに行いましょう。
意思決定すべき内容は基本的には以下の通りです。
- 現時点での対応を継続するのか(納入継続か、ラインを止めるのか等)
- 次のアクションとその期限
顧客側で意思決定すべき内容にこちらが口を出すことは基本的にはしません。
それはこちら側が決めたことではなく、あくまでこちら側からの報告を受けて顧客が自分たちで決めたことです。
その意思決定に対し、協力的に情報提供をすることは当然ですが、どこまでの意思決定が自社の責任の範囲なのかをきちんと見極めて行動しましょう。
顧客側と意思決定した内容は速やかに社内関係者へ共有し、特に合意した対応期限は厳守して次のアクションプランを練るようにしましょう。
暫定対策:トラブルクレーム発生日~翌日
顧客との意思決定後は、合意した進め方に沿って対応を進めていきます。
理想としては、すぐに原因を究明しその原因に対し対策を打ってトラブルをクロージングさせることですが、トラブル次第ではクロージングまで長期化することが想定されます。
その場合は、クロージングはできないとしても、暫定的にどのような対応を取っていくかを先方と合意する必要があります。
この暫定対策は社内各所に一時的な負担をかけることとなるため、可能な限り少ない負担で顧客が納得できる暫定対策を提示しましょう。
可能であれば、どのような条件下で暫定対策を継続し、何をもって暫定対策を終了できるかを事前に顧客と合意するようにして下さい。
トラブルが解決したとしても、「念のため」という理由で暫定対策の継続を余儀なくされると、自社の多方面に余計な負担、工数がかかってしまいます。
最終的に従来の通常運用に戻すというゴールを意識して、暫定対策も決めるようにしましょう。
原因究明:トラブルクレーム解決まで定期的に
原因究明は、トラブルが発生した現場や社内のトラブルクレーム対策チーム(品証部等)が中心に進めていくことになります。
営業としてこのフェーズで重要なことは、原因究明の状況を適宜顧客へ共有することです。
現時点でどこまでわかっているのか、考えられる原因は何なのか、そのためにどのような方法で究明を試みているのか、いつ頃までに原因が分かりそうなのか、これらのことを整理して定期的に報告をするようにしましょう。
このフェーズでありがちなミスは、原因究明は最優先で取り組んでいるのだけれど、その状況を顧客側へ共有していないことです。
何も報告がない場合、顧客からしてみれば、暫定対策を打ったことで一旦対応を完了させたと見えてしまうかもしれません。優先順位を下げて対応していると勘違いされるかもしれません。
トラブルクレーム対応時に意識すべき重要なこととして、「二次クレームを発生させないこと」が挙げられます。
二次クレームが発生すると、余計な対応を強いられたり、顧客側からの逆風が強くなりクロージングに向けた着地点を見つけづらくなってしまいます。
二次クレームを発生させないよう、顧客側とコミュニケーションを取り続けることが営業の仕事です。
特に、協力的な姿勢を示してくれている顧客側の担当者やその上長とは、常に連絡を絶やさないようにしましょう。
「トラブルの件、最近どうなってるの?」なんてことが言われてしまってはいけません。
原因・対策の最終報告:トラブルクレーム解決
トラブルクレーム解決に向けて、最終的にその原因と対策を報告します。
原因はリーズナブルに、対策は最低限で報告ができることがベストです。
ここで注意が必要なのは、時に原因が究明できない場合があるということです。
1つ1つ考えられる原因をロジカルに潰していっても原因が特定できない場合は、調べ上げたことから考えらえる原因を推定し、落としどころを見つける必要があります。
消去法的な説明をし、これしか原因は考えられません!といった最終報告をするのです。
冒頭お伝えした通り、先方自身も一刻も早くトラブルをクロージングさせ通常運転に戻りたいという想いがあります。
ロジックの抜け漏れがないかを注意して理由を構築し、先方側で社内の稟議を通しやすい状態を作ってあげましょう。
そして、先方が安心して通常運転に戻ることができる対策を提示しましょう。
その際、先方を安心させられる範囲での最低限の対策となるよう心がけます。
これまで取っていなかった新たな対応を自社の製造現場や品質検査、供給部隊に強いることとなるため、少しでも工数がかからないように心がけましょう。
理想は、結論付けられた原因に対し新たな対策が必要ない状態です。
例えば、トラブルの原因があるイレギュラーな事象であり、対策がそのイレギュラーな事象を避けること(工程を減らすこと)となるようなケースがあります。
対策を打っているようで、実は余計な工数が一切かかっていない。このような着地点を営業として導くことができれば理想的です。
クロージング:トラブルクレーム解決と同時に
原因・対策の最終報告をもってトラブルクレーム対応は完了となります。
ただ、その際に忘れてはいけないことはきちんとクロージングすることです。
最終報告とクロージングって何が違うの?と思う方もいるでしょう。
無意識にクロージングができる営業の方は特に問題ないのですが、クロージングが苦手な人は意識的に行動する必要があります。
- トラブル対応が完了したことを合意したエビデンスを取る。(議事録、メール返信)
- 対応が完了した旨、今後必要な対策について社内関係者と共有し、報告を上げる。
上記は当たり前のようですが、きちんとエビデンスが無いと、仮にトラブルが再発した時に当時の対応が完了したエビデンスが無いと、担当や関係者が変わった時にその事実を確認することができません。
トラブル対応に限らずエビデンスを残すことは営業として大切なことですが、トラブルクレーム対応時は特に意識をするようにしましょう。
正しいトラブルクレーム対応のまとめ
改めて、営業として正しいトラブルクレーム対応をまとめます。
初動からクロージングまでの流れを意識しながら、常に意識すべき大切なこと4つを頭に入れて対応を取っていきましょう。
- 顧客に対し誠実な態度を貫くこと
- トラブルが起きて最も困るのは顧客であり、トラブルをクロージングさせたいという想いは自分たちと同じであることを忘れないこと
- 顧客側に味方になってくれる人(普段やり取りしている担当者など)をつくること
- クロージング後は従来の運用に戻すこと
ワンランク上の営業マンは転んでもただでは起きるな!
二次クレームを発生させることなく、最低限の対応でトラブルクレームをクロージングさせることができれば、立派な営業マンです。
さらにワンランク上の営業マンを目指すのであれば、「転んでもただでは起きない」意識を持ちましょう。
トラブルが発生したこと自体は良くないことであり、その事実を無くすことはできません。
しかし、その後の対応の速さや、顧客に寄り添ったコミュニケーション、一緒にトラブルを解決しようとする姿勢は、時に顧客を感動させ、心を動かすことができます。
「トラブル発生自体は遺憾なことだが、すぐに連絡をくれたこと、その後の対応については非常に信頼でき感謝している。今後もより一層高品質な製品の供給をお願いしたい。また何か困りごとがあった際は、抱え込まずにすぐに相談してください。その時も一緒に協力して対応しましょう。」
こんなことを顧客から言われることができれば、結果としてトラブルを通じて顧客の信頼を勝ち得ており、より強固な関係性、ひいてはビジネスの拡大に繋がるかもしれません。
トラブルが発生した瞬間は、つらい気持ちになり顧客に連絡するのも億劫になるかもしれませんが、その後は気持ちを切り替え、むしろ顧客との関係性を強化するチャンスだと捉えて前向きに対応していきましょう。
そのような対応ができれば、周りとは違ったワンランク上の営業マンになれているはずです。
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